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今期も真菜子はブログ担当です。

2024

0428
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2007

0707

【ギュス様の書簡8日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)

 

この島に来る直前の事だ。


俺様は出発の準備と情報収集を兼ねて、旧知の仲である仰木雄介の元を訪ねていた。
理由は言うまでもない。奴が以前この島の探索に招待されており、一ヶ月ほどの滞在をしていたからだ。

遺跡がどのような場所であれ俺様の行く手を阻むような事は最初からあり得ない話だが、
全く下調べも無く乗り込むことが勇敢と思うほど、頭が足りていないわけでもない。

事前に得られる情報があるのならば聞いておくことに越した事は無く、
それも生の体験が知人の口から聞けるとなれば尋ねない理由など無かった。

 

その頃既に俺様の所に半ば居候として住み着きだしていたぬまも、
仰木雄介という名前を聞くなり着いていくと言って聞かず
連れて行かねばこの場で脱ぐとまで言い出した為、やむなく同行させることにした。


自らを底なし沼の主と称する小娘が、何故都会に住むいち化粧師の事を知っているのか。


それについて明確な回答が思い当たらず問いただしてみると、
驚いた事に、懐から取り出した封書の中から島への招待チケットと仰木への紹介状が見つかった。


極めて主観的で支離滅裂な話ぶりの為、説明の八割は意味の分からないものだったが、
(もふもふしていているが、とても頭の良いやつじゃ!等おおよそが意味不明の形容であった)

なんとか小娘の言葉を善意で拾ってやるとすると、ぬま助けた者が仰木に関わりのある人物ということらしい。


そやつがぬまに封書を渡したのだという。


「もしこの島へ渡ろうと思うのなら、まずは東京に住む彼を訪ねるといい」


紹介文にはぬまが島に渡りたがっていることと、必要なものを工面欲しい等の協力願い、
最後に筆記体の横文字でエミリーだかなんだかといったサインがされていた。


新たに得られたこの情報をまとめると一つの推論が浮かび上がってくる。
東京へ向かう列車の座席で、俺様は小娘にこう問いただした。


『ふ。ぬまよ、貴様は東京に行ったことがあるのか?』


おそらく初めての乗車であったのだろう。
流れ行く町並みや山々のまるで子供と同じように目で追い続けていた小娘は、
笑顔のつもりか大きな瞳を横にぐっと伸ばして振り返った。


「東京?知っておるぞ。あれじゃろ、カブキチョーとかいう歓楽の街があるところじゃろ?」


『そんなことは聞いておらん!行ったか行ってないかを聞いておるのだ!』


小娘の知識は分かっているようで全く分かっていないことの方が多かったが、
何故か卑猥な分野に関しては酷いほどに知識が蓄えられていた。
その理由は後々分かる事だが、とりあえずは置いておく事にする。


「行った事は……ない。ぬまは生まれてからずっと何処にも出たことが無いのでのう……」


少し寂しそうに呟く姿はその言葉が真実である事を示している。

この時、俺様の中で浮遊していた様々な推論が一つの線で繋がり結論へと導かれた。

 

『ふ。貴様…まさか、あの村で騒動を起こしておったたのは…東京へ行きたかったからか?』

 

途端に明るくなる表情。
それは結論が間違っていないことを証明すると共に、ある一つの最悪のケースも思い起こさせるものであった。

 

「ぎゅすは本当に賢いのう!その通りじゃ!今までの男どもはどうにも甲斐性なしばかりで困っておったのじゃ!」

 

島への招待状を持ち、探索経験者である仰木を訪ねたいと思っている小娘。

ここまで来て最終的な目的が違うなどということはあるまい。
東京にも一人で行けぬ世間知らずである。このままではまた一つ厄介ごとを背負わされる事は間違いない。

こんな小娘を連れておっては俺様の目的を果たす障害にしかならない。
釘を刺しておく意味でも、小娘が勘違いする前に一言を線を引いておくべきと感じた。

 

『ふ。小娘、先に言っておくが…貴様を連れて行くのは仰木の所までだ。その後の面倒など一切見ないからなッ!』

 

正直に申し上げて、この時は認識が甘かったと言わざるを得ない。

 

この小娘が口で言って聞くような物分りの良いものであるなどと、思うほうが間違いである。

 

それを思い知らされるのはそう遠い話ではなかった。

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2007

0701

【ギュス様の書簡7日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)

 

ぬまは妖怪である。


だからこそ近代文明に疎いのは当然の事であり、それを責めるつもりなど無かった。

 

 

携帯などというものふざけた小道具など、俺様もうざったさから一切使ってはいないのだが、

ぬまが大事な連絡をとる為に持たされた一機は仕方なく操作方法を覚えた。

 

いや、覚えざるを得なかったと言ってもいい。

 

 

小娘が何度説明しても、ちっとも覚えないばかりか、余計なことばかりしでかすからだ!

 

 

「これと、これと…あとこれを押して、緑色の突起をさわるんじゃったよな…突起突起…」

 

俺様に背を向けて一心不乱に取り組む小娘の姿が見える。


これで当人に繋がるのなら最初から苦労などないのだが…

 


「あああー!!間違えた!!消すにはどうしたらいいのじゃ……あ、いかん、かかってしまったのじゃ!」

 

 

来たか。

 


「ぎゅすー!!!!!!!!!!間違えたのじゃ!!!!!!!!!!!」

 

『ええい五月蝿いわッ!!貴様何度も同じ所でいちいち俺様に頼るでないッ!!』

 


「もしもし~真菜子でーす!この番号はぬまちゃんね?元気にしてたー?…あれ?あれ?もしもし、もしもーし」

 


「いいから早くしてほしいのじゃ!あやつが連絡を取りたいというのは大事なのじゃ!」

 


「もしも~し!ぬまちゃん、どうしたの?大丈夫?聞こえるー?」

 

「もう…じれったいのう…かけて欲しいのじゃ!ほれ、早くかけて欲しいのじゃ!!!」

 

最近のクソガキでも言わないくらいの叫び声を上げる小娘。

このまま軽くあしらっても騒ぎは止まるはずもない。さっさと片付けるため仕方なく端末を受け取った。

 

『…まったく貴様という奴は、貸してみよ!……なんだ、繋がっておるではないか!……利仇だが?』

 

受話器に耳を当てると同時に、今度はもう一方から叫び声が響いた。

 

「ちょっと茶坊主!!!!昼間っから何やってんのよ!!!!!!!!この…変態坊主!!!!」

 

 


こうして俺様の逆鱗は同時に二度も触られるということになった。

 

 


『五月蝿いわ!!!貴様に用などないッ!!!!!!』

 

 

 


返事を聞くまでもなく通話を切り、
しかるべき相手のダイヤルを入れ、
思いっきり力を込めて芝生の方へ投げつけてやる事にした。

 

 


追いかけて走っていくクソ小娘の背中が何とも言えない哀愁を漂わせていた。


2007

0619

【ギュス様の書簡6日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)

 

「ふぅ…毎度の事ながら、旦那の一服は言葉に出来ないほどの深みがあるわねェ」


『ふ。改めて言う事でもないであろう。当然だ。俺様の茶が美味くないわけがない』

 

声だけを聞いていれば、年増の女将と茶でも楽しんでいるような雰囲気を感じさせるだろう。

だが、相手は人間ではない。


カエル。

人の子ほどに大きさがあるのと、妙な着物を纏っている事を除けば
正真正銘上から下まで鮮やかなまでにアマガエルであった。


カエルが茶を飲むなどと世間一般の庶民からすればそれだけでも驚きであろうが、


それよりもこのアマガエルが人よりも人らしい、雅を心得ている事こそが驚きであった。
これまでに出会ってきた人間、特に茶人と称されるような世間的には偉いと呼ばれるクソジジイども、

奴らよりも数段高いレベルで俺様の淹れる茶に的確な反応を示しているのが証拠。

 

ハッキリ言って、地位や名誉などというクソ役にも立たん肩書きにあぐらをかく連中よりも


よみ、と呼ばれるこのアマガエルに茶を立てるほうがよっぽど有意義で楽しいものであった。


同時によみが表に出ている間は、うっとおしい破廉恥小娘が顔を出す事が無く、
二つの意味でカエルを相手にする茶会は穏やかで素晴らしいものとなっている。

ではこのカエルを常に表に出して、ぬまを封じ込めてしまえば良い、などと思う輩も居るだろう。

 

莫迦が。そんなことが出来たら、既にそうしているに決まっておろうが。

 


『よみ、貴様は今日はあとどれくらい居られるのだ?濃さからして、後一刻くらいであろうか』

 


よみは常に表に出ていることが出来ない。

 


「そうねェ。大方は旦那の予想通りじゃないかしらァ…まあこれはぬまちゃんの体だし、ねェ」

 

詳しい話はよく分からんし興味もないので聞いても居ないが、
この妖怪はもともとは別々の命で、何かをした結果一つの体に収まったということらしい。


もとい、妖怪はぬま一人だけだ。


よみに至ってはこうして一つになるまでは本当に正真正銘ただのカエルであったという。


今、人の言葉を解し、話が出来るのも、人並みの知性と感性を備えているのも、
全てぬまという妖怪の力を借りているのだとも語った。


そして何かを語る折には決まって同じ言葉で締めくくるのだ。

 

「ま、所詮アタシは一度死んだ身、あまりこの世に未練を持っちゃイケナイのよねェ…」

 

これは俺様にとって嫌いなものではなかった。

むしろだ。
カエルごときに言わせるには勿体無い程の美しい言葉であるとすら感じていたのだ。

単なる畜生どもにすらこんな事を言わせてしまうとは、人の愚かさは並々ならんものだとな。

 

限りある生、諸行無常であるからこそ輝き満ちる物がある。
失われることや壊れることを恐れ、人間とは本当に愚かな成長を遂げたものだ。

 

茶の湯から感じられる命の息吹、天と地の恵みを我が身に取り込む感動。

 

クソ開祖、利休が何を目指してこれを始めたのかは知りたくも無いが、
茶の湯を通して自然を知るという根の想いだけは、それだけは共感に値するものであった。

 

それをどうだ、今の『弟子』とやらがどれだけ受け継いでいるのだ?

侘び寂びの心、一期一会、それを茶の湯にどこまで込める事が出来たというのだ。

 

人の世に触れ、人の世の汚さを痛感する度に、込み上げてくる怒りの数々、

それらを鼻で笑うかのような、至極真っ当で単純な死生観。

 

よみというカエルが見せた雅はそうした類のものである。

 

『ふ。何度も言っておろうが!茶の湯を楽しむときはそんなもの喰うではない!茶が不味くなるッ!』


「あらァ、御免なさいねェ。こればかりはアタシも生き物としての本性を隠せないみたいだわァ」

 

茶菓子では物足りず、飛んできた羽虫を舌で捕まえ捕食するカエル。
その様子からすれば何処をどう見てもただの畜生でしかない。


その無作法ばかりは目に付いて何度も注意するものの、改善された事は一度たりとも無かった。

所詮は畜生どもなのである。
どこまで言っても野生の掟には逆らえない者であるからこそ。

 


だからこそ、こやつと交える茶会は本当に面白いものと感じていたのであった。

 

 

『ふ。どうやら時間のようだな。名残惜しいとは言わん。どうせ直ぐに呼び出されるであろう』

 

茶碗を置いたその手から、頭から、着衣の下から、もうもうと湯気が上がるのが見える。

 

これが全身を包む時、『よみ』は『ぬま』へと姿を変える。

 

「そのようねェ…それじゃ、ぬまちゃんにもヨロシク言っておいて頂戴。あ、そうそう。一つ伝言があったわァ」

 

変化にも慣れきっているのか、立ち籠る湯気など物ともしない様子でカエルは言葉を続ける。

 


「ぬまちゃんが起きたら、電話を一本入れてほしいって。連絡先はいつもの所。真菜子ちゃんには返信しておいたから…」

 


言い切らないうちに全てが完了する。

俺様の一時の息抜き、小さな茶会はその期待よりもはるかに短い時間で終わりを告げた。
全くもって楽しい時間ほど惜しいと感じるのは人の性ゆえであろうか。

 

消えていく湯気の影からいつもの輪郭が姿を現す。
これが始まりの合図となるである。


そして数刻たたない内に俺様の怒りは再び頂点に達するのであった。

 


まあ、いつもの事ではある、のだがな。

2007

0610

【ギュス様の書簡5日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)


「ま、また負けたのじゃー!!………」


腹の上に乗っかっていた厄介者が断末魔の叫びにも似た声をあげた。

同時に浴びせられた苦茶が、まるで沸騰した鉄瓶のように蒸気を上げ
たちまち寝所の中は蔓延した煙で視界が全く失われる。


俺様はようやくその半身を起こすと、腹の上に居た人影を無造作に払いのけた。

 

べとり、という何か生々しい音と同時に「ぎゃっ」と軽いうめき声が聞こえた。

 

「あいたたたたた…全く酷い寝覚めねェ…。頭にこぶが出来てないかしらァ」

 

辺りを取り巻いていた水蒸気はやがて空に消え去り、
身を起こした俺様の隣にあったのは人の子並の大きさをした艶やかなアマガエルであった。

 

「旦那、この様子だと…またあの子がおいたをやらかしちゃったようねェ」


『ふ。全くだ!貴様が居ながらどうして奴に態度は変わらんのだ!!!』


「旦那、気持ちは毎回聞かせてもらって充分わかるんだけれども…
 アタシにはその記憶が無いのよねェ……」

 

申し訳なさそうに頭を下げる緑色の頭。
同じ体を持てども、入れ替わりに現れたカエルには一切記憶の繋がりが無いらしい。

たとえ不機嫌の理由をぶちまけようともこれではぬかに釘。
それに身に覚えの無い者へ八つ当たりも格好の悪い話である為、
やむなく振り上げた茶碗を下ろす他無い。


こうしてまた俺様の行き場の無い怒りが宙を彷徨うのであった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

初めてこのカエルと出逢ったのは
今朝とそれほど変わらない状況によるものだった。


例の底なし沼の一件が終わり、俺様の所に厄介者が憑いたという騒ぎが起き始めた頃。
夜な夜な寝所に現れる妖怪の影を叩きのめすべく、
特製の苦茶を用意して床に就いた時のことだ。


普段は俺様が気配に気付いた所でさっと逃げ去る為
追い返してやるばかりだったのだが、
その夜は敢えて気配を絶ち、狸寝入りで妖怪を迎え撃つ算段であった。


ひたひたと畳に足音が忍び寄り布団をめくり中へ入り込もうとする。
その一瞬を捕らえると、そこには年端も行かない着物姿の小娘があった。


「ば、ばれたのじゃ…」


『莫迦がッ!そんな見え見えの気配で気付かんような愚か者だとでも思ったか!!』

 

怒号が館内に響く。これは失敗だった。


程なくして異変に気付いた年寄りと守衛どもが俺様の寝所に踏み込んでくるだろう。
もう少し事情を確かめてから叱り付けるべきだと後悔するも、時既に遅し。


理由はどうあれこのまま小娘を捕らえても、入ってきた年寄りどもの目には、


俺様が寝所に小娘を連れ込んだ。


としか映る事はないはずだ。

一旦思い込んだ年寄り程厄介なものはない。
弁明すら出来ないまま何かしらの難癖をつけるのは目に見えていた。

ならばどうするか。
このまま捕らえて厄介ごとを背負うがいいか、これで懲りると期待して逃がすのがいいか。


一瞬の思考の後、選択されたのは後者。

だがそれでは収まらない俺様の怒りは、
せめてもの土産ときつい灸を据えることを付け加えた。

 

空いた手で茶碗に用意した苦茶を思いっきりぶちまける。

 

こうすれば二度とこんな悪さをすることも無い。

そういう戒めを込めた特製の苦茶の一撃であった。

 

すると…。

 


一時して年寄りどもが、守衛を引き連れ寝所の扉を開ける。

同時に部屋に立ち込めた水蒸気が外の空気を求めて一斉に飛び出していった。

 

「な、何事じゃ、利仇!!!!!」

 

水蒸気をまともに浴びせられ半分むせながら詰め寄った年寄りどもは、

しかし吸い込んだそれよりも深い、煙に撒かれたような顔をしていた。

 

「そやつは一体…」

 


俺様の隣には人の子ほどもある化け物のようなアマガエルが一匹座り込んでいた。


年寄りどもに全てを説明するには理解度も時間も計り知れないほどに足りず、
またそんな面倒ごとを自ら招き寄せる必要すら感じられなかった俺様は、
適当にその場をこうあしらった。

 

『俺様の新しいペットだ。少しおいたをしたのでなぁ、叱ってやった所だ。
 ジジイどもには迷惑をかけたのう!』

 

その時は言い放った言葉がここまで尾を引くとは思いもよらなかった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

「あらァ…ぬまちゃんがまたそんなことを…。旦那に通用するわけが無いのにねェ」

 

受け取った茶碗をゆっくりと回し、ずずずと良い音を立てて茶をすするアマガエル。

カエルである事を除けば、その作法は見事で雅の一言に尽きる受け手であった。

これまでに星の数ほど茶の湯は立て、忘れるほどの人数の作法を見届けてきたが、
こやつほど上手に受けるものは数えるほどしか居ない。


雅を身に纏った者と交わす茶会ほど心を和ませるものは無い。


行き場を失った怒りなどいつの間にやらどこかへ消えうせているのだった。

 

『まったくだ。大人しく出来んものか、あの小娘はッ!
 奴の代わりに貴様が常に表に出ておれば良いものを…』


「それはねェ…難しいことですわァ…
 アタシの命はぬまちゃんに頂いたようなものなので」


『ならば何故余計なことばかり覚えておるのだ。貴様を飼うとは言ったものの、
 小娘を含めたつもりは一切無いのだぞ』

 

厄介者は一人で充分。飼うならば雅を知るカエル一匹で充分である。
忌々しいと軽くこぼして空になった茶碗を受け取る。


そして、

笑ったのであろうか、カエルは一瞬目を細めると大らかに語った。

 


「それも無理ですわねェ。
 ぬまちゃんも最初から旦那についていくつもりだったようですからァ……」

 


怒りを通り越した俺様の複雑な感情が、茶碗の中に満たされていくのを実感した瞬間であった。

2007

0601

【ギュス様の書簡4日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)


探索早々襲い掛かってきた畜生どもを軽く叩き伏せる。

遺跡最初の歓迎者が毒蠍とは中々洒落たお出迎えとなったが、所詮は畜生。
毒の扱いも数百年の研鑚によって磨かれた影千家には遠く及ばない。


と言うより、最初から畜生どもなど眼中には無かった。


食前の運動にもならない戦いを済ませ、息も切らせず背後を振り返る。

 

理由は一つしかない。

 

『このクソ小娘がッ!!
 貴様はこの大事な時に一体何をしておった!!』

 

探索についてきた厄介者を叱りつける。
まったく持って迷惑な話だが、これはもはや俺様の日課にすらなっていた。


やることなすこと卑猥すぎる、雅も情感も一切含まぬ煩悩の化身。

怒りの矛先である奴は、大して悪びれた風も無くあっけらかんと答えた。
それが俺様の怒りにさらに油を注ぐとわかっていながら。


「何を言っておるのじゃぎゅす。わしも存分に力を振るっておったぞ?
 なんじゃ…見てなかったのか。ならば仕方ない、再演料はタダでよいからの。ほれ!」

 

要らんッ!
 早くその小汚い乳房を仕舞え!!全く風情のかけらも無いな貴様はッ!』

 


そこから叱りつけること悠々2時間。

疲れて眠りに付いた小娘を外に放り出し、俺様の一日はようやく終わりを迎える。


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どうしてこんな邪魔者が同行することになったか、理由は少し前にさかのぼる。

 


季節にして春雨の柔らかく降る頃のことだ。
更なる銘茶を求めて諸国漫遊をしておった時、とある場所でふと噂話を耳にした。


なんでも古来から残る村の底なし沼に、夜な夜な娘の妖怪が姿を現わすのだという。


それは村人に危害を加えることは決して無かったが、
見かけた男性が一人残らず骨抜きになって戻ったという事もあり、
村では小さな騒ぎになっていた。

そこに丁度漫遊の旅を続ける俺様が訪れたのだった。

最初は興味本位の延長で話を聞いていたが、
運悪く僧衣を纏っていた為に旅の修験者と間違われ
一晩の宿代がわりに妖怪退治の真似事のようなものをする羽目になった。

最初は面倒過ぎて断ったものの、宿主の懇願と一宿一飯の礼に応える義理もあった為
仕方なく引き受け、適当に形ばかりの儀礼を済ませて帰る算段であった。


妖怪話など、所詮人の好奇心と恐怖が紡ぎあげた幻想に過ぎない。
適当な儀式でも見せ付けてやれば不安の衣なぞ容易に剥がれるものだ。

村のものを呼びつけると思いつくままに適当な説法を説き、
大袈裟な祭壇を組み、用意させた絢爛な衣装を身に纏い、
清めの一服と称して甘茶をこぼす。

歌舞伎役者も裸足で逃げ出す上々の芝居と、村人全てを信じ込ませるには充分な演出。


それで全てが解決する脚本。

 

事実、俺様の予想通り怪奇現象はその日からぱったりと止んだという。


喜んだ村人からは馳走と金一封を受け取り、これにて一件落着、千秋楽に終わる美談。
全ては台本どおりに進んでいたはずであった。

 

だが。


何の因果か、俺様はとんでもないオマケを受け取ってしまっていたらしい。

 


その晩からだ。

 

俺様の寝所に夜な夜な小娘が出入りするようになったのは。

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衣擦れの音が耳元で五月蝿いほどに響く。

 

…そろそろ頃合だろう。


既に音の主はわかっていた。考える必要すらない。

 


顔を上げれば目前には予想通りの客人が一つ。

これが朝の目覚まし代わりになってしまうとは、当時は思いも寄らなかったことである。

 

怒り感情が鉄瓶よりも容易く沸点に到達する。

 


『だから何度言ったら貴様は理解するのだッ!!』

 


用意してあった特製の苦茶を躊躇うことなくぶちまけた。

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プロフィール
HN:
一ノ瀬 真菜子
性別:
女性
職業:
助手兼マネージャー
趣味:
ふふ。一杯ですよ☆
自己紹介:

身長:170cmは確実に。
体重:永遠のヒミツです★
体型:胸元には自信アリ!

趣味:萌えたりキューンってなったり。
特技:一気に駄文を打てること?

好きな食品:
 オハヨーマンゴーヨーグルト。
苦手な食品:
 酢昆布。
好きなもの:
 キューンとするもの。
嫌いなもの:
 キューンとしないもの。

性格:見たままです!
口癖:無いと思いますけどー。

仕事:某有名コスメサロン勤務。
副業:茶坊主の行動監視。


坊主:千利仇 末永

あんまり相手にしない方がいいですよ。
すぐに怒り出す茶道の達人らしいです。
どうしてこの人が私の先生と知り合いなのか謎…
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