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今期も真菜子はブログ担当です。

2024

0427
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2007

0619

【ギュス様の書簡6日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)

 

「ふぅ…毎度の事ながら、旦那の一服は言葉に出来ないほどの深みがあるわねェ」


『ふ。改めて言う事でもないであろう。当然だ。俺様の茶が美味くないわけがない』

 

声だけを聞いていれば、年増の女将と茶でも楽しんでいるような雰囲気を感じさせるだろう。

だが、相手は人間ではない。


カエル。

人の子ほどに大きさがあるのと、妙な着物を纏っている事を除けば
正真正銘上から下まで鮮やかなまでにアマガエルであった。


カエルが茶を飲むなどと世間一般の庶民からすればそれだけでも驚きであろうが、


それよりもこのアマガエルが人よりも人らしい、雅を心得ている事こそが驚きであった。
これまでに出会ってきた人間、特に茶人と称されるような世間的には偉いと呼ばれるクソジジイども、

奴らよりも数段高いレベルで俺様の淹れる茶に的確な反応を示しているのが証拠。

 

ハッキリ言って、地位や名誉などというクソ役にも立たん肩書きにあぐらをかく連中よりも


よみ、と呼ばれるこのアマガエルに茶を立てるほうがよっぽど有意義で楽しいものであった。


同時によみが表に出ている間は、うっとおしい破廉恥小娘が顔を出す事が無く、
二つの意味でカエルを相手にする茶会は穏やかで素晴らしいものとなっている。

ではこのカエルを常に表に出して、ぬまを封じ込めてしまえば良い、などと思う輩も居るだろう。

 

莫迦が。そんなことが出来たら、既にそうしているに決まっておろうが。

 


『よみ、貴様は今日はあとどれくらい居られるのだ?濃さからして、後一刻くらいであろうか』

 


よみは常に表に出ていることが出来ない。

 


「そうねェ。大方は旦那の予想通りじゃないかしらァ…まあこれはぬまちゃんの体だし、ねェ」

 

詳しい話はよく分からんし興味もないので聞いても居ないが、
この妖怪はもともとは別々の命で、何かをした結果一つの体に収まったということらしい。


もとい、妖怪はぬま一人だけだ。


よみに至ってはこうして一つになるまでは本当に正真正銘ただのカエルであったという。


今、人の言葉を解し、話が出来るのも、人並みの知性と感性を備えているのも、
全てぬまという妖怪の力を借りているのだとも語った。


そして何かを語る折には決まって同じ言葉で締めくくるのだ。

 

「ま、所詮アタシは一度死んだ身、あまりこの世に未練を持っちゃイケナイのよねェ…」

 

これは俺様にとって嫌いなものではなかった。

むしろだ。
カエルごときに言わせるには勿体無い程の美しい言葉であるとすら感じていたのだ。

単なる畜生どもにすらこんな事を言わせてしまうとは、人の愚かさは並々ならんものだとな。

 

限りある生、諸行無常であるからこそ輝き満ちる物がある。
失われることや壊れることを恐れ、人間とは本当に愚かな成長を遂げたものだ。

 

茶の湯から感じられる命の息吹、天と地の恵みを我が身に取り込む感動。

 

クソ開祖、利休が何を目指してこれを始めたのかは知りたくも無いが、
茶の湯を通して自然を知るという根の想いだけは、それだけは共感に値するものであった。

 

それをどうだ、今の『弟子』とやらがどれだけ受け継いでいるのだ?

侘び寂びの心、一期一会、それを茶の湯にどこまで込める事が出来たというのだ。

 

人の世に触れ、人の世の汚さを痛感する度に、込み上げてくる怒りの数々、

それらを鼻で笑うかのような、至極真っ当で単純な死生観。

 

よみというカエルが見せた雅はそうした類のものである。

 

『ふ。何度も言っておろうが!茶の湯を楽しむときはそんなもの喰うではない!茶が不味くなるッ!』


「あらァ、御免なさいねェ。こればかりはアタシも生き物としての本性を隠せないみたいだわァ」

 

茶菓子では物足りず、飛んできた羽虫を舌で捕まえ捕食するカエル。
その様子からすれば何処をどう見てもただの畜生でしかない。


その無作法ばかりは目に付いて何度も注意するものの、改善された事は一度たりとも無かった。

所詮は畜生どもなのである。
どこまで言っても野生の掟には逆らえない者であるからこそ。

 


だからこそ、こやつと交える茶会は本当に面白いものと感じていたのであった。

 

 

『ふ。どうやら時間のようだな。名残惜しいとは言わん。どうせ直ぐに呼び出されるであろう』

 

茶碗を置いたその手から、頭から、着衣の下から、もうもうと湯気が上がるのが見える。

 

これが全身を包む時、『よみ』は『ぬま』へと姿を変える。

 

「そのようねェ…それじゃ、ぬまちゃんにもヨロシク言っておいて頂戴。あ、そうそう。一つ伝言があったわァ」

 

変化にも慣れきっているのか、立ち籠る湯気など物ともしない様子でカエルは言葉を続ける。

 


「ぬまちゃんが起きたら、電話を一本入れてほしいって。連絡先はいつもの所。真菜子ちゃんには返信しておいたから…」

 


言い切らないうちに全てが完了する。

俺様の一時の息抜き、小さな茶会はその期待よりもはるかに短い時間で終わりを告げた。
全くもって楽しい時間ほど惜しいと感じるのは人の性ゆえであろうか。

 

消えていく湯気の影からいつもの輪郭が姿を現す。
これが始まりの合図となるである。


そして数刻たたない内に俺様の怒りは再び頂点に達するのであった。

 


まあ、いつもの事ではある、のだがな。

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一ノ瀬 真菜子
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女性
職業:
助手兼マネージャー
趣味:
ふふ。一杯ですよ☆
自己紹介:

身長:170cmは確実に。
体重:永遠のヒミツです★
体型:胸元には自信アリ!

趣味:萌えたりキューンってなったり。
特技:一気に駄文を打てること?

好きな食品:
 オハヨーマンゴーヨーグルト。
苦手な食品:
 酢昆布。
好きなもの:
 キューンとするもの。
嫌いなもの:
 キューンとしないもの。

性格:見たままです!
口癖:無いと思いますけどー。

仕事:某有名コスメサロン勤務。
副業:茶坊主の行動監視。


坊主:千利仇 末永

あんまり相手にしない方がいいですよ。
すぐに怒り出す茶道の達人らしいです。
どうしてこの人が私の先生と知り合いなのか謎…
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