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今期も真菜子はブログ担当です。

2018

0718
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2007

0610

【ギュス様の書簡5日目】

(非常に達筆な草書体で記されている…)


「ま、また負けたのじゃー!!………」


腹の上に乗っかっていた厄介者が断末魔の叫びにも似た声をあげた。

同時に浴びせられた苦茶が、まるで沸騰した鉄瓶のように蒸気を上げ
たちまち寝所の中は蔓延した煙で視界が全く失われる。


俺様はようやくその半身を起こすと、腹の上に居た人影を無造作に払いのけた。

 

べとり、という何か生々しい音と同時に「ぎゃっ」と軽いうめき声が聞こえた。

 

「あいたたたたた…全く酷い寝覚めねェ…。頭にこぶが出来てないかしらァ」

 

辺りを取り巻いていた水蒸気はやがて空に消え去り、
身を起こした俺様の隣にあったのは人の子並の大きさをした艶やかなアマガエルであった。

 

「旦那、この様子だと…またあの子がおいたをやらかしちゃったようねェ」


『ふ。全くだ!貴様が居ながらどうして奴に態度は変わらんのだ!!!』


「旦那、気持ちは毎回聞かせてもらって充分わかるんだけれども…
 アタシにはその記憶が無いのよねェ……」

 

申し訳なさそうに頭を下げる緑色の頭。
同じ体を持てども、入れ替わりに現れたカエルには一切記憶の繋がりが無いらしい。

たとえ不機嫌の理由をぶちまけようともこれではぬかに釘。
それに身に覚えの無い者へ八つ当たりも格好の悪い話である為、
やむなく振り上げた茶碗を下ろす他無い。


こうしてまた俺様の行き場の無い怒りが宙を彷徨うのであった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

初めてこのカエルと出逢ったのは
今朝とそれほど変わらない状況によるものだった。


例の底なし沼の一件が終わり、俺様の所に厄介者が憑いたという騒ぎが起き始めた頃。
夜な夜な寝所に現れる妖怪の影を叩きのめすべく、
特製の苦茶を用意して床に就いた時のことだ。


普段は俺様が気配に気付いた所でさっと逃げ去る為
追い返してやるばかりだったのだが、
その夜は敢えて気配を絶ち、狸寝入りで妖怪を迎え撃つ算段であった。


ひたひたと畳に足音が忍び寄り布団をめくり中へ入り込もうとする。
その一瞬を捕らえると、そこには年端も行かない着物姿の小娘があった。


「ば、ばれたのじゃ…」


『莫迦がッ!そんな見え見えの気配で気付かんような愚か者だとでも思ったか!!』

 

怒号が館内に響く。これは失敗だった。


程なくして異変に気付いた年寄りと守衛どもが俺様の寝所に踏み込んでくるだろう。
もう少し事情を確かめてから叱り付けるべきだと後悔するも、時既に遅し。


理由はどうあれこのまま小娘を捕らえても、入ってきた年寄りどもの目には、


俺様が寝所に小娘を連れ込んだ。


としか映る事はないはずだ。

一旦思い込んだ年寄り程厄介なものはない。
弁明すら出来ないまま何かしらの難癖をつけるのは目に見えていた。

ならばどうするか。
このまま捕らえて厄介ごとを背負うがいいか、これで懲りると期待して逃がすのがいいか。


一瞬の思考の後、選択されたのは後者。

だがそれでは収まらない俺様の怒りは、
せめてもの土産ときつい灸を据えることを付け加えた。

 

空いた手で茶碗に用意した苦茶を思いっきりぶちまける。

 

こうすれば二度とこんな悪さをすることも無い。

そういう戒めを込めた特製の苦茶の一撃であった。

 

すると…。

 


一時して年寄りどもが、守衛を引き連れ寝所の扉を開ける。

同時に部屋に立ち込めた水蒸気が外の空気を求めて一斉に飛び出していった。

 

「な、何事じゃ、利仇!!!!!」

 

水蒸気をまともに浴びせられ半分むせながら詰め寄った年寄りどもは、

しかし吸い込んだそれよりも深い、煙に撒かれたような顔をしていた。

 

「そやつは一体…」

 


俺様の隣には人の子ほどもある化け物のようなアマガエルが一匹座り込んでいた。


年寄りどもに全てを説明するには理解度も時間も計り知れないほどに足りず、
またそんな面倒ごとを自ら招き寄せる必要すら感じられなかった俺様は、
適当にその場をこうあしらった。

 

『俺様の新しいペットだ。少しおいたをしたのでなぁ、叱ってやった所だ。
 ジジイどもには迷惑をかけたのう!』

 

その時は言い放った言葉がここまで尾を引くとは思いもよらなかった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

「あらァ…ぬまちゃんがまたそんなことを…。旦那に通用するわけが無いのにねェ」

 

受け取った茶碗をゆっくりと回し、ずずずと良い音を立てて茶をすするアマガエル。

カエルである事を除けば、その作法は見事で雅の一言に尽きる受け手であった。

これまでに星の数ほど茶の湯は立て、忘れるほどの人数の作法を見届けてきたが、
こやつほど上手に受けるものは数えるほどしか居ない。


雅を身に纏った者と交わす茶会ほど心を和ませるものは無い。


行き場を失った怒りなどいつの間にやらどこかへ消えうせているのだった。

 

『まったくだ。大人しく出来んものか、あの小娘はッ!
 奴の代わりに貴様が常に表に出ておれば良いものを…』


「それはねェ…難しいことですわァ…
 アタシの命はぬまちゃんに頂いたようなものなので」


『ならば何故余計なことばかり覚えておるのだ。貴様を飼うとは言ったものの、
 小娘を含めたつもりは一切無いのだぞ』

 

厄介者は一人で充分。飼うならば雅を知るカエル一匹で充分である。
忌々しいと軽くこぼして空になった茶碗を受け取る。


そして、

笑ったのであろうか、カエルは一瞬目を細めると大らかに語った。

 


「それも無理ですわねェ。
 ぬまちゃんも最初から旦那についていくつもりだったようですからァ……」

 


怒りを通り越した俺様の複雑な感情が、茶碗の中に満たされていくのを実感した瞬間であった。

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プロフィール
HN:
一ノ瀬 真菜子
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女性
職業:
助手兼マネージャー
趣味:
ふふ。一杯ですよ☆
自己紹介:

身長:170cmは確実に。
体重:永遠のヒミツです★
体型:胸元には自信アリ!

趣味:萌えたりキューンってなったり。
特技:一気に駄文を打てること?

好きな食品:
 オハヨーマンゴーヨーグルト。
苦手な食品:
 酢昆布。
好きなもの:
 キューンとするもの。
嫌いなもの:
 キューンとしないもの。

性格:見たままです!
口癖:無いと思いますけどー。

仕事:某有名コスメサロン勤務。
副業:茶坊主の行動監視。


坊主:千利仇 末永

あんまり相手にしない方がいいですよ。
すぐに怒り出す茶道の達人らしいです。
どうしてこの人が私の先生と知り合いなのか謎…
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